EUROラックの電源を製作します。
EUROでは+12V,−12Vと+5Vの電源が用いられます。
シンセの電源というと、モーグなど昔のモジュラーの時代は、AC100Vをトランスで変圧、整流してシリーズレギュレータで安定化する素直な方式が普通で、スイッチング電源などは考えられませんでした。
モジュールもケースも小型なEUROでは、まさに何でもありの世界で、スイッチング電源も普通に使われています。 スイッチングでも現在の技術で十分配慮されていればローノイズにできると思いますが、配慮が不足しノイズや音の濁りを感じさせる場合も有るようです。
折角ケースを作るなら、電源でも特長を出したいと思い時間を掛けて検討しました。
シンセ電源ので考え得る構成としては、
① ケース内にトランスを内蔵、整流+シリーズレギュレータ構成
ノイズが少ないが、かさが高い。
② ケース内にスイッチングレギュレータを内蔵する構成
電流は取れるがノイズが多い。
③ スイッチング方式のACアダプタを用い、ケース内のDC/DCコンバータで負電源を作る
電流は取れるがノイズが多い
④ スイッチング方式のACアダプタを2個使い、ケース内のシリーズレギュレータで再度安定化
ケース内の重が小さくノイズも少ないが、ACアダプタ2個は扱いにくい。
⑤ AC出力のACアダプタを使い、ケース内で整流方法を工夫して正負電源をつくる構成
ノイズは少ないが、あまり電流が取れないので、小型ケースで採用されることが多い
こう整理すると、パーフェクトな方式はないことが分かります。
今回、小さめのケースで扱いやすくてノイズの少ないことを重視すると、⑤の方式が有力です。
昔は正負電源が必要な機器でよく使われていましたが、最近は見かけないですね。それでもAmazonでは12V1.6Aのものが入手できます。
図1が、今回の回路です。ACアダプタは2次側1巻き線のトランスなので中点タップを利用する両波整流などは使えず、ずいぶん悩みました。まあ、趣味の世界ではこれが楽しみなんですが・・
図1
まず、図2は、正負電源を作るためによく使われる整流回路です。Doepferの小型ケースでも採用されています。これなら巻き線が1系統のトランスから簡単に正負電源が構成できます。
図2
正の半波がプラス側、負の半波がマイナス側を担当するこの方式でも、十分大きなコンデンサを用いると、正負それぞれトランスの定格電流値の40%程度が得られます。
しかし通常、正側の電流消費の多いシンセの回路では、負側の電流が少ない分を正側に回せなず、融通が利きません。
そのため正側の電流を確保するには、正負の半波の両方を使うブリッジ整流を用いたいところです。このように、正の電流が多く取れる整流回路を探しましたがなかなか良いのが見つかりません。
ブリッジ整流の正側に加えて別系統の整流をするためにはAC側に直接コンデンサを接続する図3の様な倍電圧出力しかなさそうです。
図3
しかし倍電圧が必要なわけではないので、少しトリッキーなモディファイをします。
1.ダイオードとコンデンサの向きを全て逆にします。+Vが−V、+2Vが−2Vになります。
2.ここで、−Vをグランドと見なすと、0Vが+Vになり、−2Vが−Vになります。
こうすると望み通り、正側がブリッジの両波整流で、負側は半波になっています。
実際の動作を見るとかなり面白い動きをします。
本来のブリッジは正負の半波には同じ電流が流れるものですが、
この回路では、負の半波のみ負側からも消費されるため、負の負荷が増えると、ブリッジのバランスが崩れ、本来両波である正側が結果的に半波に近い動作になります。
逆に負側の消費が少なければ、完全な両波整流になり100%を正で消費できるという、理想的な動作になることが分かります。
+V側のコンデンサは、2200uF × 3 、−V側は、両方とも 2200uF × 2 です。
正側は余裕で1A以上流せます。
下の写真は、+V側の電流1A、−V側無負荷の時の電圧です。
+V側は、リップル波形から両波になっているのが確認できます。
コンデンサの容量をもう少し大きくして、リップルの振幅を減らしたいところですが、
低ドロップの三端子レギュレータを使うので12V1Aは確保できそうです。
次の写真は、+V側は同じく1Aで、−V側を0.4Aにした時の電圧です。
−V側は完全な半波の波形、+V側は両波のバランスが崩れて半波と両波の間の波形になっていることが分かります。
ただ、正側の負荷が負側より軽くなると期待した動作にならず、負側の電圧が小さくなりかわりに正側の電圧が大きくなるという欠点はありますが、試してみるとこの条件さえ満たせば安定に動作することが確認できました。
採用決定です。